2008年12月01日

凍った海を打ち砕く斧

「本は自分の内部の凍った海を打ち砕く斧でなければならない」と
フランツ・カフカは言い、村上春樹が書きたいのはまさにそんな本だという。

カフカ賞授賞式のあいさつより
http://book.asahi.com/news/TKY200610310226.html

『海辺のカフカ』(村上春樹著)は、
私にとって、そんな斧になった……ような気がしている。

この上巻を読んだのは、半年くらいまえ、
イネスが脱走する直前だった。
特に好きな作家ではないので、なんとなく読み始めた。
この本には猫語を理解し、
近所で猫探しの名人といわれる、ちょっと風変わりなおじさん、
ナカタさんという人物が登場する。
イネスを探しながら、ナカタさんのことを思い出したものだ。

そして、この上巻でもっとも印象に残っている言葉は、
「万物はメタファーだ」というもの。
だとするなら、イネスがいなくなったり、
ねこが立て続けに病気になったり、
子猫がちゃんと誕生してくれないことは、
いったい、何を意味するのだろう……?
考えても答えは出ず、堂々巡り。
ハムスターが、回し車の中で延々と走っているみたいだった。

10日くらい前、たまたま立ち寄った本屋で
『海辺のカフカ』下巻を買った。
私のために書いてくれたのかしら? というくらい
私が必要としている言葉がたくさんあって、
端を折ったページばかりになってしまった。
時々それらを読み返すと、不思議と心が落ち着く。

例えば。
「僕はどうすればいいのかまったくわからなくなってしまった」
というカフカ少年に
性同一性障害で同性愛者で血友病患者である大島さんは、こう言う。

「いろんなことは君のせいじゃない。僕のせいでもない。予言のせいでもないし呪いのせいでもない。DNAのせいでもないし不条理のせいでもない。構造主義のせいでもないし、第三次産業革命のせいでもない。僕らがみんな滅び、失われていくのは、世界の仕組みそのものが滅びと喪失の上になりたっているからだ。僕らの存在はその原理の影絵のようなものにすぎない。風は吹く。荒れ狂う強い風があり、心地よいそよ風がある。でも、すべての風はいつか失われて消えてゆく。風は物体ではない。それは空気の移動の総称にすぎない。君は耳を澄ます。君はそのメタファーを理解する」

この部分は、牛のように何度も何度も反すうしてしまった。
全ては私のせいじゃない、と思ってもいいのだろうか。

そして思い出したのが、高校の国語の授業で先生が紹介してくれた
小林秀雄の言葉。

「自己嫌悪とは自分への一種の甘えだ。
最も逆説的な自己陶酔の形式だ」

この言葉が紹介されたのは、
カフカの「変身」、中島敦の「山月記」、
阿部公房の「棒になった男」など、
変身譚をいくつか扱った授業だった。

自分を責めたり嫌悪したみたところで、それが陶酔ならば
そこからは何も生まれないし、何も始まらない。
『海辺のカフカ』のカフカ少年も、最後は
「逃げ回っていてもどこにも行けない」と、
現実の世界に戻っていく。

カフカ少年と大島さんの物語だけじゃなく、
長距離トラックの運ちゃん・星野青年とナカタさんの物語、
星野青年とクラシック喫茶のマスターの出会いなども、
とても魅力的なものに感じた。
1冊読み終わった時、まさに「心の内部の凍った海」が割れたような、
そんな感じがあって、翌朝起きた時は、
不思議なことに、頭痛や肩凝りや倦怠感・疲労感といった
身体症状まで消えていた。

小説は好きで、読みながら泣いたり、心を揺さぶられたり、
という経験はたくさんあるけれど、こんな感じははじめて
自分でも驚いている。
(村上春樹は好きな作家じゃなくて、どちらかというと苦手だったのに)

ただ、一度割れた氷がまた凍っちゃうこともあるよね、、、
と思ってもいたのだが、今朝未明、イネスが無事に元気な
赤ちゃんを産んでくれたことで、その氷も溶けたかもしれない。

いったんいなくなったイネスが帰ってきてくれて、
元気な赤ちゃんを産んでくれたことも、
何かのメタファーなのかな。

PC010461.JPG

きのこきょうだい、ワクチン接種してきました。
だるだる〜の、ウニくん&エノキちゃんです。
明日、ちゃんと成長記録撮って更新したいと思います。

イネスの子たちは、目が開いたら成長記録つくります。
イネス&レオの子、全員クラシックタビーです(当然ですが)。
やっぱりクラシックはいいですねぇ。成長が楽しみです。
posted by RIEN at 23:05| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 女中(RIEN店長) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

リルケプロフィール

2008年12月1日生まれ
父猫:レオ
母猫:イネス
カラー:シルバークラシックトービー&ホワイト
幼名:リルケ
登録名:RIEN YUKIHIME
成長記録:
http://rienkitten.seesaa.net/category/5933444-1.html
posted by RIEN at 19:17| 東京 ☔| Comment(0) | 雪姫(リルケ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする