2020年12月18日

私の書いた調停答弁書

調停は不成立になったので、
私の書いた調停答弁書をアップしておきます。
申立人の情報、調停申立書、証拠資料類は載せませんが、
私の主張はだいたい伝わるかと思います。
ご興味ある方は、追記(続きを読む)をお読みください。
著作権、法律にお詳しいかたからのアドバイスは大歓迎です。

調停を申し立てられる前の段階で、
弁護士ドットコムで著作権詳しそうな弁護士さんを見つけ、
1時間1万円で相談に行きましたが、
私の写真と、当該書籍を見るなり
「完パクですね。これは著作権侵害ありでしょう」と
おっしゃいました。
本人訴訟するつもりだということはあらかじめお話していたのですが、
実務本やイルカ写真事件の判例などをコピーしてくださいました。

その弁護士さんからは、
「損害の算定が非常に難しい事例なので、
裁判官は和解を勧めてくると思います」と言われました。
私も、損害の算定をどうするかが一番の悩みどころです……。
(こちらからは金額を提示したことはありませんし、
調停で先方から提示された金額が妥当ではないと思いつつ、
では、いくらが妥当なのかについては、今のところ見当がつきません)

その方に代理人をお願いするとしたら、
日本の出版社への差止請求、
作家さん個人への損害賠償請求、
各40万円超とのことで、依頼するのは諦めました。

知人が渉外事務所で働いているので、
費用を聞いたら、「時給5万円」だそうで……。
どう計算したらよいのかすらわかりませんが、
イギリス・アメリカの出版社への
差止請求訴訟を起こしたら各100万はくだらない感じでしょうか?

お金あれば差止請求訴訟をおこして、
表紙・本文の刺繍写真を差し替えてもらいたいです。


第三 申立人の主張に対する答弁
1. 本件書籍が相手方の著作権を侵害しないことについて異議あり。
    申立人は、本件写真の著作物性は一応認めたうえ、複製権(著作権法21条)が問題となることはなく、翻案権(法27条)の問題のみとし、翻案権侵害も成立しないとする。
しかし、申立人刺繍は「写真のような刺繍」であるため、「模写」と言える場合があり得、その場合は複製権の侵害が成立する可能性がある。そのため、まず複製権の侵害を検討した後、翻案権を検討したい。

2. 相手方の交渉段階での主張に対する反論
(1) 西瓜写真事件について
 たしかに、西瓜写真事件は、全体の構図に著作権性を認めている。その点、西瓜写真事件を引用したのは相手方の誤りだったと思う。
しかし、西瓜写真事件は静物写真なのに対し、本件写真は動物のポートレート写真であるため、被写体決定権、構図、シャッターチャンスなど別個の検討が必要であるように思われる。
(2) 相手方の個別的な主張に対する反論
申立人は、交渉段階から相手方の写真の著作物性そのものを否定しており、この反論でも相手方写真が「ありふれた表現方法」であることを理由に、申立人の刺繍が「著作物の表現上の本質的特徴を再現」していることにはならず、著作権侵害はない、とする。
翻案権侵害の要件とされる「本質的特徴」を考える時、当該著作物の著作物性にさかのぼって考える必要があると思われるため、項を改め、本件写真の「著作物性」「複製権の侵害」「翻案権の侵害」「同一性保持権の侵害」について、相手方の主張を述べさせていただく。

第四 相手方の主張
1. 著作物性について
(1)  「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」である(著作権法2条1項)。

(2)  相手方の写真は、相手方の飼い猫「セサミ」を2017年8月13日9時51分に撮影したものである(乙第1号証)。セサミは、相手方宅で生まれたノルウェージャンフォレストキャットである。セサミの両親も相手方宅で生まれている。セサミの祖父母は、相手方がドイツ、スウェーデンに赴き、容姿、色柄等を選んで輸入したノルウェージャンフォレストキャットである。ノルウェージャンフォレストキャットのカラーパターンだけでも100種類以上あり、同じ色柄でも色の入り方によって印象が異なるし、顔立ちや毛並みも異なる。相手方は、美しい猫を誕生させるべく交配しているブリーダーであり、生まれてくる子猫たちは、相手方の作品のような存在である。

(3)  相手方は、セサミを誘導しポーズをとらせながら、構図を決め、シャッターチャンスを捉えて撮影することで、「色柄や顔立ちの美しさ、性格の良さなど、セサミの個性を現したい」という感情を創作的に表現している。そして、相手方のブログの「セサミ」カテゴリに、同日撮影の写真数枚とともにアップロードしている(乙第2号証)。

(4)  判例は、素人のスナップ写真にも著作権を認め(知財高判平成19.5.31)、野生のイルカを撮影した写真については、「自らの撮影意図に応じて構図を決め、シャッターチャンスを捉えて撮影を行った事実」から、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を認めている(イルカ写真事件 東京地判平成20.3.13 東京地裁平8(ワ)8477)。

(5)  以上のことから、本件写真は、「セサミの個性を美しく表現したい」という撮影意図に応じて、構図を決め、シャッターチャンスを捉えて撮影を行っている事実があるため、相手方の感情を創作的に表現したものとして、著作物性が認められると考える。
    なお、イルカ写真事件の判旨を引用した理由は、動物は動くものであるため、シャッターチャンスの捕捉が何より重要であることを強調するためである。申立人が引用した判例の通り、被写体の選択、光の捉え方等にも相手方の独自性・創作性が表現されていると考える。

(6)  なお、申立人は、当該写真が「ありふれた表現」であると主張し、甲第13号証において16枚の猫写真をあげている。判例も「誰が著作しても同様の表現となるようなありふれた表現のものは、創作性を欠き、著作物とは認められない」という(東京地判平7.12.18)。
    申立人の主張の通りであれば、相手方の写真も甲第13号証の16枚の猫写真も、そもそも著作物性が認められないことになろう。
    しかし、これらのような猫の顔をアップで写したポートレート写真が、「誰が著作しても同様の表現となる」わけではない。甲第13号証の16枚の写真は背景からすると屋内写真であり、飼い主が飼い猫を撮影した写真と推測される。猫は基本的に憶病な動物であり、個体差、品種差はあるものの、飼い主以外にはあまり近寄ってこないものである。至近距離で見上げる、見つめるといった表情を飼い主以外の人間が撮ることは難しい場合が多い。これら16枚の写真は、どの猫も落ち着いたおだやかな表情をしているが、それは飼い主にしか撮れないものであり、そこには愛情や信頼関係といった感情が、独自にそして創作的に表現されていると考えるべきである。
    本件写真も、飼い主である相手方とセサミの信頼関係があるからこそ、これだけ近寄ってアップで撮影できたのであり、「誰が創作しても同様の表現となる」わけではない。
    なお、飼い猫の写真を撮影するには、飼い主の住居に入る必要があり、この点でもそもそも「誰にでも著作できる」わけではないであろう。本件セサミも同様である。

2. 著作権侵害行為について
    申立人は、当該写真の猫にそっくりな刺繍作品を制作し、刺繍作品、その手順を解説した文章、それらの版権をイギリスの版元Quatro社に販売した。その結果、本文と表紙に本件写真の猫そっくりな本件刺繍の写真が使われた書籍が、イギリスで販売され(乙第3号証)、アメリカで予約開始(2020年7月15日販売開始予定)され、日本でも購入することが可能な状態になった。

3. 複製権侵害について(法21条、2条1項15号)、
著作権法上、複製とは「印刷、写真、複写、その他の方法により有形的に再製すること」であり(法21条、2条1項15号)、複製権侵害といえるには@既存の著作物に依拠することA既存の著作物を有形的に再製することが必要である。
申立人が、相手方の写真を参考にしていることは争いがなく(申立書 紛争の要点 第2−2「本件刺繍作品の制作の経緯」)、依拠性が認められることについては争いがないものと思われる。
そこで、申立人の刺繍が、相手方の写真を「有形的再製」といえるかについて検討する。

(1)  この点、模写には著作権がないと判示した判例がある(豆腐屋浮世絵事件 東京地裁平成17年(ワ)26029号)。申立人の刺繍が「模写」といえるならば、申立人の刺繍作品が相手方の写真を「有形的再製」したことになると思われるため、検討する。 

(2)  判例は、「機械や複写紙を用いて原画を忠実に模写した場合には、模写製作者による新たな創作性の付与がないことは明らかであるから、その模写作品は原画の副生物にすぎない」とする(豆腐屋浮世絵事件 東京地裁平成17年(ワ)26029号 ※上記は地裁判決文の引用であるが、知財高裁平成18年(ネ)10057号も「新たな創作性の付与」の有無を複製と翻案の区別基準に用いていると思われる)。
すなわち、「模写」とは、判旨の通り「機械や複写紙を用いて原画を忠実に再現すること」と考える。

(3)  なお、豆腐屋浮世絵事件は、絵画が絵画を模写した場合であるが、本件は絵画が写真を模写した場合と同様にとらえて検討する。絵画は紙の上に下絵を描き絵具や色鉛筆等で色をのせて仕上げるものであるが、刺繍は布に下絵を描きそこに色糸を針で刺して仕上げるものであり、どちらも紙や布という平面上の表現で美術の範囲に属する著作物である(法2条1項)といえ、共通性があるからである。

(4)  まず、本件書籍日本版「わたしにもできる! ねこ刺繍レッスン」の校正ゲラ(乙第3号証)25ページに「準備と仕上げ」という項目があり、そこには「刺繍枠に布をはめてから図案を転写する方法は、下絵がゆがまないので理想的です」「転写ペーパーを使う場合 図案を手芸用トレーシングペーパーに写し取っておき、布の上に転写ペーパー、トレーシングペーパーの順で重ね、書けなくなったボールペンなどで図案をなぞって布に転写する」とある。
さらに、巻末に図案と図案を布に転写できるアイロンプリントの付録がある。英語版25ページにも同様の説明があり、巻末付録も同様である(乙第3号証)。
   次に、巻末付録の図案・アイロンプリントと、申立人撮影の「セサミ」写真を、倍率を等しくして重ねた時、その輪郭はピッタリと重なっている(乙第4号証)。この図案・アイロンプリントは、当該写真を刺繍するのに最適な大きさに拡大または縮小して、輪郭、目鼻立ち、毛並みをなぞって作成したと考えられる。
また、当該書籍本部には「鼻筋は一見ただのグレーに見えますが、白い毛と黒い毛がはっきりとまだら模様になっているねこなので、より近い雰囲気にしました。大変ですが、頑張って!」(甲第3号証39ページ)、「このねこのひげは、根元は黒く、先は白が混じっています」(同45ページ)など、相手方の写真にできるだけ忠実に刺繍しようとしたことが伺える。実際に、当該刺繍は、当該写真の猫の顔の目鼻立ち、毛並み、縞模様、ヒゲの長さや色、目の形、瞳孔の大きさ、キャッチライト、左右の瞳の陰影等を忠実に再現している。
申立人の刺繍は、写真そっくりに仕上げることが特徴である。本件刺繍も、写真に見まごうばかりの仕上がりであり、縮小したり、遠くから眺めた場合は写真に見えても不思議はない。

(5)  以上より、申立人作成の刺繍は、複写紙を用いて原画の輪郭を布に転写し、その布の上に、絵具と筆の代わりに糸と針を用いて、布の上に猫の顔を描き、写真を忠実に再現している。よって、申立人の刺繍は「機械や複写紙を用いて原画を忠実に再現すること」といえ、当該刺繍は相手方撮影写真の「模写」にあたる。
したがって、相手方撮影写真の副生物にすぎない申立人の模写作品は、申立人の複製権を侵害すると考える。

(6)  なお、申立人は非常に高度な刺繍の技術を有するため、そのことをもって、申立人の刺繍作品に新たに別個の創作性が認められ、本件写真とは別個の著作権が発生すると反論することが考えられる。しかし豆腐屋浮世絵事件は「模写行為自体に高度な描画的技法が採用されていたとしても、それらはいずれもその結果として原画の創作的表現を再現するためのものであるにすぎず、模写製作者の個性がその模写作品に表現されているものではない」と判示しており、申立人の反論は当たらないと考える。

(7)  また、申立人は、申立書9ページにて「本件刺繍作品は、シャツのポケットの上という限られた狭い面積の中で、一定の太さがある糸でしか表現できないものであるので、毛の1本1本を表現するなど不可能なことであり、糸の組み合わせや刺繍の仕方で一定の距離から見れば猫に見えるように工夫して表現したもの」と主張する。 
しかし、「図案をトレーシングペーパーに写しとって転写ペーパーで布に転写する」方法と、「一定の太さがある糸での表現」ということを合わせて考えると本件刺繍は本件写真に表現されたものの範囲内で、これをいわば粗雑に再製又は改変したに過ぎないものともいえる(西瓜写真事件)。このような再製または改変が、複製もしくは翻案にあたり、著作権法上違法なものであることは明らかというべきである(27条、21条 2条1項15号)。

(8)  さらに、申立人は当該書籍日本版の「はじめに」にて、「機械より上手に刺繍したい」旨述べている(甲第3号証)。機械的に写真を再現するのであれば、どんなに高度な技術をもってしても、刺繍作品には申し立て人の個性が表現されているものではなく、原写真の創作的表現を再現するにすぎないと考える。

4. 翻案権侵害について(法27条、28条)
本件刺繍が「模写」ではない、として複製権の侵害が認められなかったとしても、翻案権の侵害はあると思われるため、その点を検討する。
著作権法上、翻案とは、「既存の著作物に依拠し、かつその表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう」(最高裁平成13年6月28日 江差追分事件)。
翻案権侵害といえるには@既存の著作物に依拠することA既存の著作物に修正等を加えて、新たに創作的表現を作成することB当該創作的表現から既存の著作物の本質的特徴を直接感得できることが必要である。
申立人が、相手方の写真を参考にしていることは争いがなく、 @依拠性が認められることについては問題ないと思われる。当該刺繍には、A「新たな創作的表現」がないと相手方は考えるが、これが認められたとしても、B当該刺繍の創作的表現から、当該写真の本質的特徴が直接感得できるため、翻案権侵害の要件を満たし、著作権侵害があると考える。
以下、B「当該創作的表現から既存の著作物の本質的特徴を直接感得できるか」について検討する。

(1)  この点(ア)新著作物の創作的表現とは何か? (イ)旧著作物の本質的特徴は何か? (ウ)新著作物の表現から旧著作物の本質的特徴を直接体感できるか? の3段階に分けて考えなければならないと考える。

(2)  まず、(ア)新著作物である申立人の刺繍の創作的表現について考える。申立人は、注文主が撮影した猫写真そっくりに刺繍をする作家として人気を集め、また、それを売りにして個展を開催したり書籍を刊行したりしている。「機械よりうまく、機械より写真そっくりな猫を刺繍する」というのが、申立人の創作的表現である(甲第3号証7ページ「はじめに」より)。本件も、猫の顔を写真に見えるように刺繍したところに、申立人の創作的表現があると考える。

(3)  次に、(イ)旧著作物である相手方写真の本質的特徴は何かについて考える。
本件写真は、相手方の飼い猫であるセサミの顔のアップ写真を、セサミの目鼻立ち、毛並み、色柄などセサミの個性がはっきりわかるように、目を中心に顔全体にピントがあうように撮影している。猫の瞳孔は明るさによって大きさが異なり、明るいと瞳孔が細くなりきつい印象になってしまうため、できるだけ瞳孔を開かせつつ、全体が暗くならない写真にしたいと考え、撮影時間(室内の明るさ)、絞りを調整し、目にキャッチライト(瞳孔の上の白い光部分)が入るような位置、角度に猫を誘導しながら撮影している。
以上より、本件写真の本質的特徴は、顔全体にピントがあうことによって猫の色柄や目鼻立ちといった個性を表現していることと、瞳孔が中くらいの太さになりキャッチライトが入る瞬間をシャッターチャンスとしてとらえたことにあると考える。

(4)  では、(ウ)新著作物の表現から、旧著作物の本質的特徴を直接感得できるかについて考える。
申立人は「図案をトレーシングペーパーに写しとって転写ペーパーで布に転写」し、その下絵に色糸を刺していくという方法をとるが、その際「鼻筋は一見ただのグレーに見えますが、白い毛と黒い毛がはっきりとまだら模様になっているねこなので、より近い雰囲気にしました。大変ですが、頑張って!」(甲第3号証9ページ)、「このねこのひげは、根元は黒く、先は白が混じっています」(同45ページ)など、相手方の写真にできるだけ忠実に刺繍しようとしたことが伺える。
そして、実際に、当該刺繍は、当該写真の猫の顔の目鼻立ち、毛並み、縞模様、ヒゲの長さや色、目の形、瞳孔の大きさ、キャッチライト、左右の瞳の陰影等を忠実に再現している。
その結果、相手方の飼い猫セサミという猫の色柄や顔立ちなどの個性と、瞳孔が中くらいの大きさでキャッチライトが入った瞬間、という相手方の写真の本質的特徴を直接感得しうるものと考える。
      以上より、申立人の刺繍の創作的表現から、相手方の写真の本質的特徴が直接感得できるため、翻案権侵害の要件を満たし、著作権侵害があると考える。

(5)  なお、申立人は、本件刺繍に表現された猫の顔の特徴と本件写真の猫の顔の特徴が同一であったとしても、それは「表現自体ではないまたは創作性がない部分」(江差追分事件)であるため翻案権侵害はないと主張する。本件写真の猫は「この世に実在する猫」という事実であるため、事実を刺繍したにすぎない本件刺繍が本件写真の翻案権を侵害するものではないというが、以下の理由で妥当ではないと考える。

(@) もし、自然界にいる猫を撮影した写真に著作物性が認められないということになるならば、国内外の野良猫を撮影して写真集を出しているプロカメラマンの写真や、インターネット上SNSで人気を集めている飼い猫写真にも一切著作権が認められなくなるため妥当ではない。もしくはそれらの写真を参考にしたイラスト、絵画、刺繍、縫いぐるみ等を製作した場合も一切翻案権が成立しないことになり、「泳げたいやきくん」のイラストを参考に作られた縫いぐるみに翻案権侵害が認められている(たいやきくん事件 東京地判昭52.3.30)こととも均衡を欠き、妥当ではない。

(A) たしかに、ライオンやトラなど猫科の野生動物の写真の場合は、申立人の主張が妥当な場合もあるかもしれない。しかし、イエネコ(飼い猫・野良猫含む)の写真の場合は、猫の品種(雑種も「ハウスホールドペット」と呼ばれて品種のひとつと扱われている)、色柄、顔立ち(目の形、色含む)が非常に多岐に渡る(乙第5号証)。そのため、著作物性の認定においても、翻案権侵害の「本質的特徴」の認定においても、品種特性、色柄、顔立ちといった猫の個性は、単なる事実ではなく、撮影者がその個体を選んだという被写体決定権が非常に重要となると考える。

(B) この点、同じ建物を撮影した2枚の写真に翻案権侵害はないとした判例(廃墟写真事件 知財高裁平成23年5月10日判決)がある。この判例は、2枚の写真を比べて「写真全体から受ける印象」「写真全体において表現されている全体としての印象」が異なることから、翻案権侵害を否定している。

(C) この「全体から受ける印象」を考える際に、静物写真や建物写真なら物の配置が重要であるが(西瓜写真事件)、動物である猫のポートレート写真においては、被写体が動くこと、色柄や顔立ちの個体差が大きいことを判断要素に加味して検討すべきと考える。すなわち、撮影者がピントをあわせた部分の被写体の猫の色柄、毛並み、顔立ちといった個性をも表現自体または創作性の一要素と考えて、新著作物と既存著作物の「全体から受ける印象」が異なるか否かを判断すべきである。

(D) 本件に当てはめてみると、「刺繍全体から受ける印象」は相手方が2017年8月13日の9時51分に撮影した、相手方宅の飼い猫セサミというノルウェージャンフォレストキャットの顔そのものであり、両者から受ける印象は異なるものではないと考える。この判例の基準からも、本件刺繍は翻案権を侵害しないという申立人の主張は妥当ではないと考える。

(E) 蛇足ではあるが、相手方の主張を支えるため、セサミカテゴリのブログ記事を乙第2号証、セサミの異母兄弟であり似たような色柄の「あかね」のブログ記事を乙第6号証として提出する。セサミのカラーは「ブラックシルバークラシックタビー」、あかねの色柄は「ブルークラシックタビー」であり、両者ともにグレーの縞の猫である。似た色柄の猫でも明らかに個性が異なること、同じ猫を同じ撮影者が撮影しても、1枚1枚陰影、表情、目の瞳孔の開き具合が異なることがおわかりいただけるであろう。これらの写真、本件で問題となっているセサミの写真、本件刺繍を見比べていただくと、本件写真と本件刺繍は、「全体から受ける印象」が異ならないことをご理解いただけるのではなかろうか。

(6)  さらに、申立人は、本件写真の本質的特徴を、「背景をぼかしながら」「全体的にブラウンの色合いが強調された点」にあり、申立人はその部分を本件刺繍表現していないため、翻案権侵害が成立しないとする。
しかし、目を中心に顔にピントをあわせた点に相手方の写真の本質的特徴があるので、申立人の主張は妥当ではない。申立人が本件写真の「全体的にブラウンの色合いが強調」された表現を採用していないという変更があっても、その変更に創作性があるとは認められない。判例も、入れ墨の写真を反転し、カラーをセピアにした程度では、その変更に創作性を認めず、その写真が入れ墨の著作権を侵害するとしている(観音立像入れ墨事件東地判平23.7.29 平21(ワ)31755)。

5. 同一性保持権の侵害について(法20条1項)
申立人の本件刺繍は、相手方の写真から猫の顔だけをいわばトリミングしたかたちで使用し、全体の色調を変更し、本件書籍表紙においては猫の胴体を削除した部分にタイトルや著者名の文字をかぶせている。このことは、「著作者の意に反して著作物の表現を変更」することであり、同一性保持権の侵害にあたると考える。
先に引用したイルカ写真事件(東京地判平成20.3.13 東京地裁平8(ワ)8477)も、背景をトリミングし、文字をかぶせたことに同一性保持権の侵害を認めており、妥当と考える。

6. 故意過失
上記の通り、申立人刺繍及び刺繍写真は、相手方写真に依拠して制作されたものであるから、申立人は著作権侵害について故意がある。
また、2020年1月27日のブログにて(乙第7号証)、「写真自体の著作権はくださらなくてよいので自由に刺繍させていただける写真を募集している」、と述べていることからも、他人の写真を勝手に参考にして刺繍をした場合は著作権侵害になることについての故意がある。
さらに、申立人は2016年にフランスのファッションブランドのポール&ジョー社が申立人の刺繍写真を無断で使用したことが著作権侵害にあたるとして訴訟を提起していることからも(甲第8号証2ページ)、他人の写真を無断で使用することが著作権侵害になることについて故意少なくとも過失がある。

7.以上より、申立人刺繍は、相手方写真の複製権(21条、2条1項15号)、もしくは翻案権(27条、28条)、同一性保持権(20条)、氏名表示権(19条)を侵害する。

第五 まとめ
申立書2ページによれば、申立人は●●社(版元)との間で、今後印刷し、出版される予定のフランス語版と日本語版については表紙においても本文においても本件刺繍作品の画像を使用しない方向で協議を進めているとのこと、著作権侵害がないというなら、そのような協議も不要なはずである。
また、そのような協議ができるのであれば、現在出版されているイギリス版、予約受付が開始されているアメリカ版についても同様の措置を求める。
申立書4ページによれば、申立人は19本の刺繍作品とその解説を納品しているとのこと、現在発売または予約受付しているものについても、販売を差し止め、他の作品と差し替えてから再度販売することは容易と思われる。その措置がなされたとしても、相手方にはすでに著作権侵害による損害が生じており、その損害賠償請求権及び出版の差止請求権を放棄するつもりはない。
posted by RIEN at 16:23| 東京 ☀| Comment(0) | 女中(RIEN店長) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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